第11章 【赤葦】溺れる街★
夕飯にハンバーグのプレートを食べて、俺達はファミレスを出た。
席を立つ時、さんが俺が書いたラブレターもどきをバッグの中にしまっているのを見て、胸の中がキュンと苦しくなった。
「あの雨はなんだったんだろうねー?」
「本当ですね。」
空を見上げると雨雲は跡形もなく消えていて、代わりに夏の星座が夜空で瞬き、張り付くような湿気った空気を残していた。
「さん。」
「ん?」
「さっきの、捨てて良いですよ?」
「え?あぁ、コレ?」
さんはカバンから紙ナプキンを取り出す。
「そう、それです。」
「いいじゃん。大切だもん、持って帰る。」
無意識なんだろうか。
それとも、俺が本気だって分かっているのか。
彼女は大切そうにノートの間にそれを挟んで、再びカバンにしまう。
「もう電車動いてるかな?」
「さっき調べたら通常運転に戻ってましたよ。」
「仕事が早い!流石あかーし!!」
「木兎さんみたいに言わないでくれます?」
改札を通ると駅のホームは豪雨の影響で普段よりも混み合っていて、すれ違う人はみなどこかグッタリと疲れた表情た。
彼女とは同じ路線で一駅違い。タイミングよく到着した列車に流れ込むように俺達は押し込まれ、身体の小さなさんが満員電車でもみくしゃにならないよう、必死で手を引いた。
「大丈夫ですか?」
「うん。こんな混むの久しぶりだね。」
「そうですね。」
丁度入り口を背に立つさんを守るように俺は手をついて壁をつくる。
(壁ドンて言うのかな、コレ。)
周りから見たら、恋人同士に見えるだろうか。ぎゅうぎゅうとひしめき合いながら揺れる電車の中で、時折俺を見上げてニコッと笑う彼女を見て俺はそんな事を思った。
(あ゛ぁーーー、、、抱きしめたい)