第3章 【黒尾】憂鬱な猫は空を見上げ★
約束の日。
陽が沈んだ頃に駅前のロータリーまで車で迎えに行くと、賑わう人混みを縫うように駆け寄ってきたの姿を車内から見つけ、妙に緊張している自分に気付く。
(うわー、、、久々すぎてやばい。)
ピッタリとしたデニムとオフショルダーのトップスという夏らしい服に身を包んだ彼女。
助手席のドアを開けて彼女が乗り込んだ瞬間、夏の夜の空気と一緒に覚えのある香水が香る。
彼女の部屋にいると、
いつも香っていた。
一瞬であの日々の記憶が戻ってくる。
「お久しぶりですね。」
「ごめん!週末跨いで研修とか結構あってさー。」
「別にいいよ。」
全然良くないけど。
我儘なんてカッコ悪くて言えずに、俺は気にしてないフリをした。
「ねー、鉄朗。大学どう?」
「講義つめつめでヤバい!」
「1、2年の時ってキツイよねー。もはや懐かしい、、、。」
「あのちゃんが社会人だもんね。時が経つのは早い。」
「あのって何よ!ホント相変わらず生意気なんだから。」
会話が始まれば、あの時に戻ったみたいにすぐに居心地が良くなる。
会話のテンポ
二人にしかわからない話
俺を生意気だと笑う彼女の横顔
「ちゃんは?仕事順調?」
「うん。大変だけど、まぁなんとか頑張ってるよ!!」
「カッコいい先輩に言い寄られたりしてるんじゃないの?」
「ないよ、そんなの。鉄朗だって美人な先輩に口説かれてるんじゃないのー?」
「以上の美人なんてこの世にいんの?」
「急に真面目な顔しないでよ!、、、恥ずかしいなぁ。ま、そんな人がいても絶対にあげないけどね!鉄朗を拾ったのは私なんだから!私の物だもんね。」
自信ありげに笑っている彼女を見ると、俺の心はそれだけでじんわりとアツく熱を帯びる。
に独占される心地よさ。
それでも、会えない間に募った不安はそう簡単に消えてくれるわけじゃなくて。宛名のない手紙みたいに、自分の中だけに募ってしまった想いは、今にも溢れ出しそうに揺れていた。