第3章 【黒尾】憂鬱な猫は空を見上げ★
時計の針が12時をさしたのと同時にチャイムが鳴って、一斉に皆財布とスマホを持ってオフィスを出てランチに向かう。
憂鬱でしかなかった就職活動を何とか走りきり、私は都内の古びたビルにオフィスを構える、広告代理店の総務部に就職をした。
「ちゃん、さっきの伝票ありがとね。」
「いえいえ!」
「昼外行くの?」
「ちょっとやりたい仕事残ってるんで、コンビニでなんか買います!」
「そっか!んじゃ、途中まで一緒に行くべ。」
席を立ったタイミングで営業部の先輩に声をかけられ、一緒にエレベーターに乗り込む。スマホのホーム画面を開くと、メールの通知があった。
「何々?彼氏?」
「覗かないで下さいよー。まぁ、そんな感じですけど。」
「顔にやけすぎ!」
「そ、そんな事ないですよ!?」
「いや、めっちゃにやけてるし!何々?カッコいいの?彼氏。」
「んー、、、私はカッコいいと思いますけど。まぁ普通じゃないですかね?身長は長谷川さんより遥かに高いです!」
「こら、俺をディスんなよ!俺だって背低くはないからな?」
「彼氏は180以上あるんで!!」
背伸びして手を伸ばし、彼の身長の高さを再現しながら自慢げな私の頭をチョップして笑う長谷川さん。
「どんだけ好きなんだよ!!」
「結構好きです。年下だけど頼りになって。」
「へぇ、意外。ちゃん年上に甘えてそうなイメージだけど。」
「私の方が年上だけど子供ですよ。」
「はいはい。惚気はそこまでー。」
エレベーターを降りビルの薄暗いエントランスを抜け、私は長谷川さんとは逆方向のコンビニに足を向けた。
アスファルトを焼くような7月の太陽に、行き交う人たちはみんな目を細める。
"週末会える?星見に行かない?"
彼からのメールに私の胸は踊る。
今週末は久々に予定もなく彼とデートが出来そうだ。
(1ヶ月ぶりかな。)
私は手短にメールを返信し、スマホをポケットにしまった。