第10章 【白布】君の合図で始まる夏★
「お前ら何サボってんの?」
その声と同時に、目を細めたくなるほど眩しい目の前の景色に一瞬にして影がさす。
声が降ってくる方を見上げると、そこには海パン姿の川西が立っていた。
「サボってねーよ。」
「川西、、、丁度いい。いい影になってるからずっとそこに立ってて。」
「丁度良いじゃないよ。暇ならお前ら昼飯買いに行って来てよ。瀬見さんに頼まれてさ。」
「太一は俺を丸焼きにしたいの?」
「大袈裟だっつの。ほら、コレ貸したるから。んじゃ宜しくなー。」
そう言って川西は、賢二郎に自分のパーカーを手渡すと、私に意味ありげなウインクを残して瀬見さん達の方に戻って行った。
(もう、、、余計なお世話だってば。)
「賢二郎、仕方ないし行く?」
「ハァ、、、行く。」
賢二郎は、川西に借りたサイズの合わないパーカーを袖を通さずに羽織り、フードをかぶって立ち上がる。そのなんとも言えないメランコリーな雰囲気に私の心はさざ波のように揺れる。
(何にドキドキしてんだろ、私、、、)
きっと私は賢二郎が何してたって簡単にドキドキできる。それはあの日、告白を断られてからも変わらなかった。
「俺、彼女とか今いらないから。」
それはインハイ予選前。
私の一世一代の告白はいとも簡単に、アッサリ、スッパリ、切り捨てられた。
それがあまりに賢二郎らしくて、妙に納得してしまう自分がいたのもまた事実で。
「そっか。」
それ以上返す言葉も思いつかないでいると、「早く帰ろうぜ」と言い、さっさとその場から去っていく背中。
落ち込むタイミングすら見失って、私は急いでその背中を追いかけた。
翌日。私に対する態度はなんら変わりなくて、寧ろ話を蒸し返すのも気がひける程だった。数週間経つと、自分が告白した事さえ夢だったんじゃないかと思い始める程に。
だからといって、この胸を締め付けるやり場のない気持ちが消えるわけじゃない。
傍で夏の日差しに目を細める彼を見上げて私は思うんだ。
やっぱり、私は賢二郎が好き。