第10章 【白布】君の合図で始まる夏★
「チッ、、、」
隣から盛大な舌打ちが聞こえて、私は恐る恐る様子を伺う。
さらりと切りそろえられた髪から覗く視線は、気怠げに波打ち際を見つめている。
「ど、どうしたの?賢二郎。」
「あちぃ」
「まぁまぁ。夏だし、、、ね?」
「おーい!!けんじろーもこっち来ればー?」
「げっ」
少し離れた水辺の方で、瀬見さんや五色くん達とはしゃぐ天童さんが、両腕をブンブン振ってこっちを向いて合図する。
青い海、白い砂浜、、、
夏真っ盛りのロケーションにも関わらず、私と賢二郎はパラソルの下にビニールシートを敷いて、身体を縮こませて必死で紫外線から逃れていた。
「結構でーす。」
間違えなく天童さんには届かないであろう、通常なトーンで返事をした賢二郎は、ハァとため息をついて、より一層縮こまった。
「夏嫌いだっけ?」
「嫌いじゃないけど。日焼けすんの無理なんだよ。すげぇ赤くなるし。もはやただの火傷。」
なるほど。
確かに色白の賢二郎だ。数十分でも紫外線を浴びようものなら、その男の割にはすべすべとした肌は悲鳴をあげるに違いない。
とは言え、せっかく部活のメンバーでインターハイの打ち上げで海に来たというのに。パラソルの下で1日過ごすなんてあまりに勿体無い気もする。
(まぁ、水着の可愛い子いっぱいいるし。ここにいてくれた方が良いけど。)
想いを寄せる相手と一つパラソルの下。相手はすこぶる機嫌が悪いけど、まぁラッキーと言えばラッキーな状況でもある。