第3章 【黒尾】憂鬱な猫は空を見上げ★
つり革の向こう。
壁に貼られたA3サイズの星空が
ふと目に飛び込んできた。
"夏休みこども天体観測体験ツアー"
俺は通学途中の電車に揺られながら、そんな広告を見て、おもむろにポケットの中のスマホを取り出した。
この4月。
俺は晴れて大学生になった。
通学の電車は高校時代と変わらないし、実家暮らしもそのまま。
それでも、変わった事は結構ある。
バレーはサークルで軽くやる程度になった。通学の時、研磨が隣にいないのは地味に違和感があって、いまだに左側に視線を向けては、ハッとする事がある。
制服もジャージも着なくなって、毎日慣れない私服をコーディネートするのは至難の技だ。休日に木兎と赤葦を呼びつけ、買い物に付き合わせることもしばしば。今日も赤葦の的確なアドバイスで買った、濃紺のデニムに、人気があるらしいボックスロゴがポイントのストリートブランドのTシャツ。
電車の窓にうっすらと写る私服姿の自分は、どうしても見慣れない。
そして何より一番変わったのは、毎日のように会っていたに、会わなくなったという事だ。
4月になった瞬間、彼女からの誘いはパタリと途絶えた。それが悪いことかと言えば寧ろ良い事で。彼女が仕事でうまく行っているんだと思えば喜ぶべきなんだと思う。
もともと恋人という関係かどうかも怪しい俺たち。ある雨の日をキッカケに、何となく一緒に居るようになって。気付けば俺はに求められるままに彼女の一人暮らしの部屋に入り浸った。
当時は大学4年の就活生で、鬱々とした毎日を送っていた事もあって、俺という存在が必要だったんだと思う。
俺は自分でもビックリするほどを簡単に好きになったし、に求められる関係が心地良かった。一緒にいれば喧嘩もするし、セックスもする。それでも俺たちは「付き合おう」と言う言葉を発したことがなかった。
その時の俺たちには、恋人と言う概念なんて必要なかったんだと思う。
それくらい
刹那的な割には
深く繋がっていたと思うからーーー。