第39章 【黒尾】さようなら、またイツカ。★
***
ホテルを出る頃には陽はだいぶ落ち、真夏の霞んだ空は紫に染まっていた。
気だるい身体は幸せの証みたいで、寧ろ私は嬉しくて鉄朗の腕にギュッと掴まる。
「そういや今日、灯籠流しの日だわ。」
「道理で浴衣姿の人がちらほらいるわけだね。」
「行ってみる?帰り道だけど。」
「うん。」
灯籠流しは私達の地元では夏の風物詩で、夏祭りとセットで誰しも一度は足を運ぶイベントだ。
心から死者を悼む人がいれば、灯篭に願い事を書く人もいたり、その幻想的な景色を写真に収める人もいる。
幼い頃は何度か家族と足を運んだ記憶があったけど。学生になってからはどちらかと言えば夏は花火ばかり見ている気がする。
会場に近付くにつれて人が次第に増え、出店が道の両脇に立ち並びお祭の空気感が漂っていた。
「あ!ってりんご飴好きじゃなかった?」
「え、、?うん、よく覚えてるね。」
「まぁね。すみませーん、りんご飴2つ。」
「え?鉄朗も食べるの?」
「うん。」
あの時から8年経っているというのに、鉄朗はビックリするくらい私の事をよく覚えていてくれて、胸の奥がキュンとつらくなる。
さっきホテルで鉄朗が、いっそのこと一緒に死ぬ?と言った時はビックリしたけど、なんだかそれもいいかも知れないと思えてくる。
そのくらい、今日1日は幸せな1日だったから。
「あ、見えてきた。」
前方に流れる川の水面に無数に揺らめく淡い光の数々。
それはまるで天の川みたいだと私は思った。