第38章 【花巻】夏の憂鬱は夜空に託して
打ち上げに参加したのは及川、岩泉、花巻、松川、私、そして及川狙いだという女子二人だった。どういう経緯で集まることを知ったのかは知らないけど、クラスは違うし挨拶程度しかしたことがないし、どうせ及川が相手にする子たちだからとあえて気にしないようにしていた。
「及川君、おまたせー」
「ねぇ見て見て」
でもさすが及川狙いだ。二人は華やかな浴衣に着飾っていて、及川の前でくるくる回っては愛想を振りまいている。私の事なんて眼中になしという感じで、彼女たちから見たら私は都合のいい引き立て役なんだろうな。
「浴衣じゃーん。えー、なんで?めっちゃ可愛いんだけど」
「だってせっかく会えるんだし女の子だったら浴衣着たいじゃん」
「もしかして俺のためとか?」
「決まってるじゃん。こんなチャンス滅多にないし、うちら及川にアピりに来たんだし」
「そういうつもりなんだったら俺も浴衣で来ればよかったな。着こなす自信結構あるんだけど」
「じゃあまた遊ぶ約束してよー?」
「全然いいよー」
なんて三人は盛り上がっている。女の子二人の本気っぷりが伝わってきて正直怖い…。ちらっと花巻を見れば及川達三人の様子を見て笑っている。
ねぇ…、花巻はどう思ってるの?
“女の子だったら浴衣…”その言葉思いっきり刺さる。花巻だって可愛い女の子の方がいいに決まってるもんね。あの子たちと比べられているようで出来れば花巻の前で言ってほしくなかったな…。
「おい誰だよ。余計なん呼んだの?」
そんな中、若干イライラした様子でそうこぼした岩泉。隣で松川も頷いている。
「及川に決まってるだろ?」
「最後の夏くらいいつものメンバーで締め括りたかったのによ」
それは私も同感…。でもそれなら私も参加してよかったのかな。確かにこの四人とは仲良かったし、部活帰りにコンビニで買い食いしたり、グループメッセージのメンバーに入っていたりしたけど…。