第28章 【月島 蛍】夏の音色、風に乗って
「あの···なんかゴメンね」
「なにが?」
「本当は···もしかしたら、蛍君が私のこと···とか」
「ない。絶対ないから···飢えてる兄ちゃんじゃあるまいし。別に僕、女に困ってないから」
強がりを吐き捨て、兄ちゃんまでを巻き込んで無理やり話を遠ざける。
「勉強教える気ないなら、帰りなよ。僕、恋バナで浮ついた女子大生の話し相手をするほど、そんなにヒマじゃないから」
突っぱねる言い方をすれば、相手が傷付くのなんか分かりきってるのに。
そんな言い方しか出来ない、僕。
「あのね蛍君···」
「帰れよ!!用もないのに居られても邪魔なだけ!」
腕を引いて無理やり立たせ、カバンを鷲掴んでドアを開ける。
小さな背中を部屋から押し出して、大きなため息を吐いてみせた。
「もう、来なくていいから。親には僕が適当な理由つけて話しとく」
それだけ言い捨ててドアを閉める。
静かに階段を降りて行く気配を感じ取りながら、もう一度···今度は自分に対して息を吐いた。
これで、いいんだ。
悔しさと、切なさと、虚しさで胸がいっぱいになりながら···そっと窓辺に身を寄せて外を見る。
そこには親と、兄ちゃんに見送られながら少しずつ遠ざかって行く見慣れた後ろ姿。
一度くらい···振り返れよ。
心で毒づいた僕の頭の上で、チリーンと風鈴が音を響かせた。
僕の···ひと夏の想いが、終わった瞬間だった。
澤「休憩!ちゃんと水分補給して休めよ」
主将の声にハッとして、たいして練習に集中していなかった事に気付く。
···イヤなこと、思い出しちゃったじゃん。
チッ···と舌打ちして配られるスクイズに口を付けながら体育館の入口を見れば。
『えいっ!···あ~、届かない!』
先輩マネージャーが持って来た風鈴にジャンプしたり、背伸びしたりを繰り返す同じ学年のマネージャーが見えた。
なにやってんだ?
ホント、理解不能。
あんな所に付けてあるんだから、届くワケないデショ。
関わったら面倒そうだ···と思いながらも、なぜか自然と足が向く。
「ちょっと。なに意味不明な行動してんのさ」
『月島くん!ちょうど良かった···ね、あの風鈴外してくれない?』
「は?なんで僕が···だいたい、そこに付けた人に言いなよ」
あの場所に付けたのは、心優しい···副主将。