第28章 【月島 蛍】夏の音色、風に乗って
そんな淡い期待を胸に秘めながら、次に会える日を楽しみにしていた。
なのに。
僕は···見ちゃったんだ···
山「ツッキー、帰りに本屋寄ってもいい?月バリ買わなきゃだからさ!」
「なら···僕も」
学校帰りに、山口と足を伸ばした本屋。
お互いに目的の物を会計して、外に出て···見覚えのある姿を道の向こうに見つけた。
あれは···絶対そうじゃん。
今日は僕んちに来る日じゃないのに、なんでこんな所に?
声、掛けてみようか?
山口が一緒だけど、別に学校の友達ってだけなんだから平気だろ?
女じゃないし。
山「あれ?ツッキーどこ行くの?」
「ちょっと、用事。着いてきて」
山「別にいいけど?」
横断歩道に向かいながらも、ずっと姿を見失わないように視線をロックオンする。
山「あ~···信号変わっちゃったね、ツッキー」
ホント、ついてない。
そう思いながらも彼女からは目が離せなくて。
だけど···その本人は人混みに誰かの姿を見つけたようで、軽く手を振って歩き出してしまった。
誰かと待ち合わせだったのか?
だったら、声をかけない方が···?
···?!
嬉しそうに歩き出す方向には···僕の知らない、大人の男の人。
その人の隣に並んだ彼女は、さも当たり前のように微笑みながら腕を絡ませた。
なんだろう···この胸の空白感。
なんだろう···この伸し掛る重さ。
なんだろう···あぁ···そうか···
これが···失恋、ってヤツか。
淡い期待をした、淡い想いの相手に···パートナーがいた。
それだけの事なのに、なんでこんなにも···痛いんだよ。
山「ツッキー、信号変わったよ?」
「···帰る」
山「えっ?用事は?」
「僕の···勘違いだったから、いい」
全部···勘違いだっただよ。
···全部。
翌日、勉強が始まる前に···何気なく、聞いた。
「昨日、誰かと待ち合わせでもしてた?」
誰と待ち合わせしてたのかなんて知ったるのに、ズルい聞き方をしたと思う。
「なんで?」
「駅前の本屋の近くで、見かけたから」
そう言うと彼女は照れながらも···彼氏···と答えた。
「大学の2つ上の先輩で、卒業する時に告白して···そのままずっと、かな」
「別に、そこには興味無いから」
それ以上聞きたくないし。