第27章 【菅原】Parasol fantasia
「孝ちゃ~ん?ちょっと、買い物行って来て~?」
またかよ。
せっかく部活がないからゆっくり寝ようと思ってたのに!
抵抗してもムダなのは分かってるから、モソモソと起き上がって階下へ向かう。
「商店街のお肉屋さん行って来て?お母さんが行ったら、この暑さで死んじゃう」
「オレは死んでもいいのかよ?不公平だべ」
「だって孝ちゃん部活で鍛えてるじゃない?平気平気!」
暑さは鍛えてないから。
「って事で、はい。生物だから寄り道とかしないでよ?」
「こんなファンシーな保冷バッグ持ってどこに寄れって言うんだよ」
カラフルな動物柄の保冷バッグを渡され、せめて違うのないのかよと愚痴る。
「もうひとつあるけど?どっちがいい?ほら」
ピンクのハート柄とか、ないだろ。
「このままで結構です···行ってくる」
暑っついな···
肉屋に行けば行ったで、孝ちゃん買い物とか偉いな!って肉屋のおじさんがオマケしてくれて、更には帰り道気を付けなさいよ?なんて言いながら、おばちゃんがアイスをくれた。
だから、オレもう高校3年だっての···
子供の頃から知られてるってのも、なんだかなぁ。
ひとり苦笑を浮かべながら、貰ったアイスを齧りつつ歩く。
そういやこの間も、こうやって帰り道に瓶ラムネ飲みながら川っぺりに行ったら···会ったんだよな。
まっすぐ進めば、家。
そう思いながらも、何となく足は···いつもと違う道へと向かい出していた。
「ウソだろ···」
同じ場所に、同じ日傘。
着ている服は違うとは言え、あれは絶対···さんだ···
あの時と同じ日傘をさして、ゆっくりと流れる川の水を眺めてる。
時々吹き抜ける風に髪をサラリと遊ばれている姿は、またもオレの胸を大きく鳴らした。
声、かけるべき?
そう思いながらも、もう少しその姿を見ていたいという気持ちに勝てなくて···その場でずっと、さんを見てた。
トクン···トクン···と少しずつ高鳴る胸の音が、自分の耳だけに大きく響く。
それは次第に、この世界にはオレ達だけしかいないかも知れないという錯覚さえ感じてしまう。
···なんて。
オレ、いつからそんなロマンチストになったんだ?
思わず出した乾いた笑いに声が乗ってしまい、さんが振り返る。