第27章 【菅原】Parasol fantasia
日射しを避けるように歩きながら豆腐屋までの長い長い···道のりを行く。
あまりの暑さに心が折れそうだ。
だけど、この暑さに耐えれば好物にありつける。
「頑張るべ!」
思わず出した声に、慌てて周りを見回せば···後ろを歩くおじいさんに目を逸らされた。
···聞かれた?
気恥しいのを隠し目的の豆腐屋まで早足で歩いた。
子供の頃からの馴染みの店で、お使いなんて孝ちゃん
偉いねぇ~と瓶ラムネを駄賃に貰い苦笑が漏れた。
オレ···18才なんだけどね。
豆腐屋のおばちゃんには、そんなの関係ないらしく。
転ばないように気をつけて帰るんだよ?と念を押されながら店を出た。
帰り道、どうせなら川っぺりでひと休みして帰るか?と角を曲がれば、土手に出た所で突風に煽られる。
ま、それもまた涼しいじゃないかと乱れた髪を搔き上げると、目線の先真っ白な何かが空を舞っていた。
それは高く高く上がり、やがて···ヒラリ、またヒラリと踊るように落ちてくる。
傘?
でも、雨なんて降ってないから···日傘か?
空を舞いながら落ちてくる日傘を見ていると、それは近くの木の枝に引っ掛かるようにして止まった。
どこから飛んで来たんだ?なんて思っていると、少し離れた所から人影が小さく駆けてきた。
まるで今日の空の色のようなふわりとしたワンピースを着た人は、日傘の引っ掛かった枝の下でそれを見上げてため息をついた。
背伸びをしたり、ぴょんぴょんと跳ねたりする姿を···オレはただ、なんとなく見てた。
いや!見とれてる場合じゃないべ!
豆腐の入った袋を持ち直し、すぐにオレはその人の所まで向かった。
「オレが取ってあげるから、ちょっとコレ持ってて?」
特に顔も見ずに袋を預け、木の幹に足を掛けて少しだけよじ登った。
日傘まで、あと少し。
グンッと腕を伸ばせば···ほら、届いた。
傘を閉じ手元に寄せてヒョイっと木から降りる。
「はい、どうぞ?つうか、あッちぃ···」
肩口で汗を拭いながら日傘を差し出すと···
『あの、菅原先輩···ですよね?』
「えっ?」
予想もなく呼ばれる自分の名前に驚き、そこで初めてまじまじと顔を見る。
「オレを知ってるの?」
見覚えのない顔に尋ねれば、小さく頷いた。
『バレー部の3年生の···』
あぁ、確かにそれはオレだ。