第27章 【菅原】Parasol fantasia
一目惚れして恋に堕ちるなんて、そんなの他人事だと思ってた。
だけどあの日。
オレは···君に堕ちたんだ。
「孝ちゃ~ん、降りて来て!ちょっと買い物行って来てよ」
部活もなく部屋でゴロゴロしていると、階下から母さんがオレを呼びつける。
買い物なんて、自分で行って来いよ。
そう心で悪態を付きながらも、下に降りるまでオレを呼び続ける声にうんざりして、仕方なく身支度を整え階段を降りて行く。
「あのさぁ、外はいまメチャクチャ暑い時間帯じゃん?そんな時になんで買い物?夕方とかじゃダメなわけ?」
キッチンで忙しなく動く母さんを見ながら冷蔵庫を開けて麦茶を出せば、まだ作りたてなのか生ぬるい。
···最悪だ。
飲もうとしていた物を黙って冷蔵庫に戻し、ため息をつきながら母さんをまた見る。
「で?このクッソ暑い中、かわいい息子に熱中症の危険を及ばせながらも買い物させる物ってなに?」
「その言い方か既にかわいくないわよ、孝支」
ダメだ···母さんにはどんな嫌味も通じない。
「孝支、今日何の日か知ってる?」
「さぁ、なんかあったっけ?」
母さんがせかせかと料理の準備をしてるって事は、なんかあるんだろうとは思うけど。
「お父さんの誕生日よ!忘れたの?」
「あ!なるほどね···ってか、父さんの誕生日とオレが買い物行かされんのと関係なくね??」
そう言うと母さんは、それが大アリなの!と息巻いた。
「お父さんの好きな物を作ろうとたくさん買い物したんだけどね?···お豆腐、買い忘れちゃって」
「は?」
「だから、お豆腐買い忘れたの!大事でしょ?!」
いや、大事なら忘れんなよ。
豆腐?
「もしかして母さん?!」
ピンポーン!孝ちゃん大正解!と大げさに笑ってる母さんに、オレもう高校3年なんだから孝ちゃんって呼ぶなよな···と返す。
「お父さん、激辛麻婆豆腐が好きでしょ?だから作ろうと思ってたんだけどさ。孝ちゃんも好きでしょ?」
激辛···麻婆豆腐、だと?!
「行ってくる」
夕飯に出されるオレの好物でもある激辛麻婆豆腐に釣られて、さっきまで暑くて行きたくねぇー!と思ってた気持ちが反転する。
茨の暑さでも、行かねば!
せっかくなら、スーパーの先の裏通りにある豆腐屋まで行くかな?
あそこの豆腐、超絶美味いし!