第26章 【黒尾】君のいない夏★
「クロ。一緒に帰ろ?」
が珍しく部活帰りにそう言ってきたのは、3月の終わり頃。
春休みに入る前のことだった。
帰り道には早咲きの桜が街灯に照らされ、冷たい空気の中にはどこか春めいた香りを感じた。
俺は飛び跳ねたくなるくらいの嬉しさの反面、どこか頭の中で不安がよぎっていた。
「クロ、4月から主将だね。」
「海とかの方が合ってる気がすんだけどな、俺は。まぁ、夜久にやらせるくらいなら俺がやるけどね!」
「またそんなこと言ってる。本当は信頼してるくせに。」
「別にー。まぁ、あいつのレシーブはかなり信頼してるけど!」
「はいはい。背番号1、クロが1番似合ってるよ!」
「ありがとな。」
少し気恥ずかしくてポンポンと彼女の頭を撫でる。
すると、は少し楽しそうに身体を弾ませ、遮断機の降りた踏切のところまでスキップをして、俺はその後を笑いながら追いかけた。
「マネージャーもお願いしますよ?頼りにしてんだからね。」
俺がそう言うと、彼女はくるっとこっちに向き直り、さっきまでの笑顔が嘘だったみたいに深刻そうな顔をして口を開く。
「ねえ、クロ。」
俺の名前を呼ぶ彼女の目が、心なしか潤んでいる気がした。
(あ、くる、、、、)
0.5秒で俺は彼女が次に発するであろう言葉に身構えた。