第22章 【国見】汗は消えども火照りは消えず。
「高校生……なのに、どうしよう…私…」
駅に向かって歩いていく国見の後ろ姿から目が離せない。
後ろ姿が駅に消えて、漸く視線を自分の手元へと移す。
手渡された紙切れには彼のイメージ通りの、細く繊細な文字。
『勝算のない勝負はしない主義』
去り際に言い残した国見の言葉を思い出して赤面する。
その言葉の意味を考えてわからないほど、自分は子どもではないのだ。
(まいったな……)
はきっと自分に落ちる。
つまりは、そういうこと。
もう一度は紙切れを見つめる。
『連絡してくれないと許さないから』
まるで、脅迫のような求愛。
でもそんな彼にもう心を奪われてしまっている。
は火照る顔を冷まそうとカーエアコンを自らに向けた。
「おーす、国見……何、スマホ見てニヤついてんだよ?」
「うるせ…ほっとけよ」
いつもの電車に乗ればいつもの金田一に会う。
ただいつもと違うのは、一歩動いた自分がいるということ。
今頃はどうしてるだろうか。
自分の言葉など無視して日常に戻るのか、それとも気にしてソワソワしてくれているだろうか。
そうだったらいい。
仕事も手につかない程に悩んでくれたらいい。
「つか国見、全然汗掻いてなくねぇ?」
「今日は…車だったから」
「え、車?!送って貰ったのかよ~!うらやま……」
「そのうち紹介、出来るかも。あ、電車きた」
ホームの奥へ歩く国見の後ろ姿を金田一は頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げる。
「紹介って……国見んちのおばさんじゃねぇの?」
金田一がその真実を知ることになるのは、カーエアコンも必要なくなるほどに涼しい季節を迎えてから。
それはまた、別のお話。
END.