第22章 【国見】汗は消えども火照りは消えず。
「きっと電車に乗るんだと思ってて…もしかして遅れちゃうんじゃないかって。そう思ったら思わず呼んでた(笑)」
「そう、ですか…」
の見解は当たっている。
図星をつかれた気恥ずかしさもあり、国見は歯切れの悪い返事を返す。
気付けば汗も引いていた。
涼しい……カーエアコンへチラリと視線を向ければ運転席へ風を送るエアコンも全て国見の方へ向けられていた。
彼女のさりげない気遣いに気付いてしまった。
(…気付かなければ良かった)
そうすれば、年上の、社会人の……こんな綺麗な人に淡くも無謀な、こんな恋心を持たずに済んだのに。
(いや……もう車に乗った時点で詰んでるか)
「名前、聞いてもいい?」
信号待ちの僅かな時間。
この交差点を抜けたらもう駅だ。
「…国見、英です」
「国見くんか!よろしくね」
もうすぐ終わってしまうであろうこの時間。
偶然が折り重なって生まれた彼女との出会い。
このままただの他人に戻ることは簡単だ。
ありがとうございました、さようなら。
それだけ言って、車を降りればそれで終わる。
(でも、あの人なら…)
国見の脳裏にはまた甘い微笑みを浮かべる主将の顔が浮かんだ。
しかも甘さも甘さで、ゲロ甘だ。
「あ、ここで大丈夫かな?電車もまだ余裕で間に合いそうだね、良かった」
車はハザードをつけて駅前のロータリーに停まった。
「学校、頑張ってね」
そう言って笑うの顔を見て『欲しい』とやっぱり思ってしまう。
「さん」
「?……は、はい…」
急に真剣な顔で見つめられては背筋を伸ばして返事をする。
深い色をした国見の瞳は真っ直ぐにの瞳を捉え、逸らすことを許さない。
「……く、国見くん…?」
「俺、勝算のない勝負はしない主義なんです」
「………え?」
国見は鞄の中のノートを少し破って走り書きで自分の電話番号を書いた。
そしてその紙切れをの手に握らせる。
「連絡、してくれないと許さないですから」
「え…?国見くん…?!」
「乗せて貰って助かりました、それじゃ」
驚いて目を丸くさせているに見せた不敵な笑み。
彼のその顔に年甲斐もなくドキドキしてしまったのもまた事実で。