• テキストサイズ

《HQ》真夏の条件 〜夢短編集・夏〜

第20章 【赤葦】ガラス玉にキスをするのは僕じゃなくても




 腕を伸ばして空になったラムネの瓶を水平線へと翳した。
 ガラス玉と重なる空際。屈折した世界もそれほど悪くはない。


確かに恋をしていた。
誰に打ち明けることはなくても。



「赤葦ーっ、ちょっと海入ってかない?」

「ええ?」


 戻ってきた途端にさんがまた奔放なことを言う。先ほどの涙からは一転。子供のように無邪気な笑顔で。


「俺はいいです」

「ダメ、先輩命令」

「んな無茶苦茶な」

「せっかく来たんだしはしゃごうよ」

「はしゃぐとか俺そんなキャラじゃないんで」



 結局は押し負かされた形となって波打ち際まで行くことになった。腕を引く力はそれほど強くはないが抗えない。面倒だ…と思いながら彼女と一緒に渋々と堤防を下りてゆく。

ふと、青々と並んだ二つの瓶が視界の隅で街に熔けたような気がした。


酷熱に弾かれて揺れる光。
彼女の隣にいた時間をもう一度記憶に刻んで瞳を綴じた。


瓶の中のガラス玉と共に。


















            + F i n +



/ 283ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp