第20章 【赤葦】ガラス玉にキスをするのは僕じゃなくても
腕を伸ばして空になったラムネの瓶を水平線へと翳した。
ガラス玉と重なる空際。屈折した世界もそれほど悪くはない。
確かに恋をしていた。
誰に打ち明けることはなくても。
「赤葦ーっ、ちょっと海入ってかない?」
「ええ?」
戻ってきた途端にさんがまた奔放なことを言う。先ほどの涙からは一転。子供のように無邪気な笑顔で。
「俺はいいです」
「ダメ、先輩命令」
「んな無茶苦茶な」
「せっかく来たんだしはしゃごうよ」
「はしゃぐとか俺そんなキャラじゃないんで」
結局は押し負かされた形となって波打ち際まで行くことになった。腕を引く力はそれほど強くはないが抗えない。面倒だ…と思いながら彼女と一緒に渋々と堤防を下りてゆく。
ふと、青々と並んだ二つの瓶が視界の隅で街に熔けたような気がした。
酷熱に弾かれて揺れる光。
彼女の隣にいた時間をもう一度記憶に刻んで瞳を綴じた。
瓶の中のガラス玉と共に。
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