第5章 裏切りの審神者 ここから本編
遠くで、剣と剣が交わるような音が聞こえる。
時には砲弾の音が鳴り響き、この国に侵入者が現れたことを報せるサイレンが鳴り響く。
そんな騒がしさの中、そんなことは無関係と言わんばかりの空気がここにはあった。
ここは審神者が統治している国、教会都市。
いつの時代に建てられたかわからない旧世界の遺跡が多く残るこの国は、かつて起こった戦争でところどころ崩れ落ちている。
だが、城壁に囲まれた建物は無傷なものが多い。
その建物の一画にある部屋で、老人は黙々と国の歴史を紙に綴っていく。
かつてこの国で起きた大きな戦争と、女神達の勇姿を後世に残すためだ。
遠い昔、戦で荒れ果てていた時代。
五人の女神がこの地に降り立った。
彼女達はその身に携えていた刀に人の身を与え、刀を振るうことで、この地に平和をもたらした。
我々は彼女達を審神者と、人の身を得た刀を刀剣男士と呼び、信仰の対象として崇めた。
彼女たちの力によって、戦乱は遠い彼方の記憶になり、光と緑溢れる豊かな大地で、人々は幸福な日々を送っていた。
そう書き綴ったところで、老人は筆を止めた。
否、止めざるを得なかった、のだ。
「ぐっ!……貴様……は……」
背後から刀で体を貫かれ、綴っていた紙や筆に鮮血が飛び散る。
胸を貫かれながらも、老人は息も絶え絶えに振り向こうとした。
「その、審神者様です」
その言葉と共に刀を一気に抜き、室内の壁が大量の血で汚れる。
老人の体はドンと机に突っ伏し、彼は振り向くことも叶わず生き絶えた。
「遠い昔……か。歴史なんて、勝ったほうが都合よく書き綴れちゃうものなのよね」
老人の血で汚れた紙を感慨深げに見つめた後、彼女は窓の外に視線を向けた。
途端、ドンと大きな咆哮が鳴り、壁が崩れ落ちる。
大砲が打ち込まれたのだ。
彼女を討ち取るために。