第8章 借りを返しに
早朝、ゼロは加州清光と共に山姥切国広の隠れ家を後にすると、海の国海上神殿を目指した。
海上神殿に行くには、神殿を守る海軍を突破しなくてはならない。
ゼロは海上神殿が見える丘に登り、辺りを一望する。
「圧巻だね。あれら全部、ファイブの力に洗脳された兵士達だ。殺しがいがあるね。清光、お前もそろそろ退屈してた頃だろう?」
「退屈してたのはゼロじゃない?」
「そうかもな。なんにせよ、ここから先は退屈せずに済む。海の国の海軍はなかなかの豪傑揃いと聞くからな」
海上神殿まではいくつも門を通らねばならない。
ゼロがいる丘のすぐ近くにも門があり、そこを守る兵士が周辺を固めている。
ゼロが人間兵士如きにやられるとは思っていないが、それでも加州は不安だった。
一年前とは状況が違うのだ。
「ゼロ、本当に行くの?審神者達を殺しに」
ゼロが戦う理由を、加州は誰よりも理解しているつもりだ。
それでも、本当は戦って傷ついて欲しくない。
ゼロは加州の問いに暫く黙っていたが、ゆっくりと頭を横に振った。
「もちろんだ。全員殺すまで……終わらない。終われないんだ」
ゼロは加州にそっと手を触れる。
彼女の手はヒンヤリとして冷たい。
けれど、その手からは熱いものが伝わってくる。
やはり、彼女は戦うことをやめない。やめれないのだ。
「わかった……んじゃ、始めますかねー」
「清光、今度はちゃんと付いて来い。私から離れるなよ」
ゼロは愛刀を手にし、目先にある海上神殿を睨み据えた。
その瞳に迷いは一切無く、まるで焔が宿っているかのようだった。