第9章 ご褒美は?
アンダーテイカーも立ち上がった。そして私をそっと抱きしめた。
「!…」
「だから伯爵が、君のことを譲ってくれなかったときは、本当に胸が痛んだよ。でも、伯爵も小生と同じように、君のことが大事なのだと…そう思って諦めた。」
「諦めたわけじゃないって言ってたのに?」
「もちろん、諦めたわけじゃないよ。」
今度は強く抱きしめられた。
「アンダーテイカー…。」
「どうしたんだい?」
「朝…。朝になる…。」
「もうそんな時間なんだねぇ…。」
「うん。」
私はアンダーテイカーから離れた。私の心の中は、自分でも驚くくらい落ち着いていて、冷静だった。
「…戻るね。シエルが、お屋敷で待ってるから。」
「メイドはちゃんと続けるんだねぇ…。」
「うん。だって雇われた身だからね。」
今度はしっかり微笑むことができた。
「…そうかい…。」
「そんな悲しく笑わないでよ、死神さん。」
「ヒヒヒッ…そうだねぇ。」
「うん。じゃあ、ありがとうね、アンダーテイカー。」
「うん。」
私は葬儀屋を出て、ファントムハイヴ邸に戻った。
「遅い。」
「!…ぼ、坊ちゃん…ど、どうして…。」
玄関のドアを開けると、杖を付いて、仁王立ちで待っていたシエル。
「どこへ行っていた?」
「そ、そんなに睨まなくても…。」
これまでにないくらい睨まれている。
「…はぁ…。」
「…」
「…ゴメンね、シエル。」
「!…」
「ずっと苦しい思いさせて…。」
「何を言っている?」
「もういいの。もう偽らないで。」
「!…」