第8章 過去
見開いている目が閉じるまで、数分かかっていた。ちなみにこの時、もう何年かの月日が流れていた。
「死んだ…?」
「うん。カミル・ヘンリーに殺されてねぇ…。」(伯爵はなんとか生きていたんだねぇ…。)
小生は全てを知っている。ナツキが伯爵の屋敷にいたことも、伯爵がナツキのことを大切にしていることも。そして、悪魔と契約を交わしていることも。だって、隣にいるその執事君が、そうだろう?
「…セバスチャン…カミル・ヘンリーを殺せ。」
「もう死んでるよ?」
「何?」
「…何者かに襲われてねぇ…。」(ま、小生なんだけどねぇ…。)
あのあと、時間がもったいない、とは言ったものの、怒りはおさまらず、つい、殺してしまった。顔が顔じゃなくなるくらい。
「…」(本当は…死神が人間を殺すことはいけないことなんだけどねぇ…。)
ナツキを蘇らすのに、2年かかった。執事君が何度かナツキの入っている棺桶を見ていた。その度に、執事君の目は真っ赤に変わっていた。
「…」(でもそれはあげられないよ~?小生のものだからねぇ…。)
そして、ナツキを蘇らすことがやっとできた。でも、時間が悪かった。小生は足りないものを買いに、街に出ていた。その間にナツキは蘇り、どこかへ行ってしまった。
そしてナツキを探して、ヘンリー家にいることがわかった。またなぜ捕まってしまったのかわからない。
暴力を振るわれ、本当の母親だと信じ、何年も苦痛の中で生きてきた彼女。
小生に救うことはもうできない。彼女の記憶は綺麗さっぱりなくなっていた。生まれた時からあの家にいて、あの家で育った、と思いこんでいる。ヘンリー家の人達もそう言っている。