第8章 過去
「ん~…。」
ただ、散歩がしたかっただけだった。でも、ヴィンセントに言ったら必ず誰か連れていけ、と言われるだろう。だから黙っていた。
「ん…?」
誰も入っていかない、あるお店があった。私はドアノブをひいた。
「…誰かいませんか?」
「おや…?小さなお嬢さんだねぇ…。」
「!…」
そこには、長い銀髪で、黒装束に身を包んでいるある男性がいた。
「…お兄さん…誰?」
この時、私の歳は13歳。私があの屋敷に行ってすぐ、レイチェルと結婚したヴィンセント。そのあとにシエル達が生まれた。
「小生は……そうだねぇ……なんだろうねぇ…。」
「…」
「お嬢さんはどうしてここに来たんだい?」
「気になったから…。」
「そうかい。てっきり、小生に興味があるのかと思ったよ~。」
「…ある。興味。」
「ホントかい?」
嬉しかったのか、微笑んでくれた。
「名前はなんていうんだい?」
「ナツキ…。」
「ナツキ、か。」
「…あなたは?」
「小生?小生は……アンダーテイカー。」
「アンダー…テイカー…?」
「そう。」
覚えづらい名前。そう思った。
「そうだ、出会った記念にこれをあげよう。」
それはエメラルドの付いたネックレスだった。
「!…ありがとう!」
私は首に付けてもらった。そこから、ずっとアンダーテイカーと話していた。
「もう…帰らないと…。」
「また明日もおいで?」
「うん!来る!」
アンダーテイカーと話しているのは楽しかった。私は屋敷に戻った。
「ナツキ。帰りが遅いよ。」
案の定、ヴィンセントには叱られた。