第8章 過去
その人に連れられ、私は屋敷に行った。
「…まずはお風呂に入っておいで。」
その人は私に優しく接してくれた。言われたとおり、お風呂に入り、またその人のところに戻った。
「入って…きた…。」
「おかえり。おいで、髪の毛を乾かしてあげよう。」
読んでいた本を閉じ、私の髪の毛を乾かしてくれた。
「両親はいないの?」
「…殺された…。」
「!…」
表情は見えないけど、その人が息を呑んだのがわかった。
「…悲しくないのかい?」
「…悲しい…。でも…もう涙が出ないの…。さっき…泣いたから…。」
「…そっか。」
「あの…名前…。」
「ああ、まだ言ってなかったね。私はヴィンセント・ファントムハイヴ。ここは私の屋敷。今日から君はここに住むから、自由に過ごしてくれていいよ。君の名前は?」
私も答えた。
「…ナツキ・エミル…。」
「ナツキ、ね。良い名前だね。はい、乾いたよ。」
「ありがとう…。」
私は彼の方を見た。
「ん?どうしたんだい?」
「…ううん…なんでもない…。」
私は彼が信用できなかった。でも…この屋敷に来て、いろいろなことがあった。
彼が結婚したこと。シエル達が生まれたこと。彼は私がお屋敷に来て数ヶ月経った頃に結婚をした。
「出かけてきます。」
「どこへ行くんだい?」
「ヴィンセント、いちいちそれは聞かないとダメなの?」
「!…フフッ…そうだね、ゴメンね。行ってらっしゃい。」
「うん、行ってきます。」
「ナツキ、お小遣いはいらないのかい?」
「いらない!」
私は街に行った。