第2章 新しい朝
「ナツキ。」
「…何?」
「5分…いえ…2分、私に時間をくださいませんか?」
「…?」
すると、セバスチャンは一瞬にして私の髪の毛をセットし、服を着替えさせてくれた。
「2分も必要ありませんでしたね。」
ニコニコと微笑むセバスチャン。本人は満足なのだろう。寝起きで口の中が気持ち悪い。
「…歯を……磨きたいです…。」
「かしこまりました。」
洗面所に案内してくれた。もう歯ブラシが用意されていた。私は自分で歯を磨き、また玄関へ向かった。
「もうお出かけですか?ご朝食は」
「いらないです。」
言葉を遮り、私は玄関を開けた。
「…それじゃあ、お世話になりました。」
「ナツキ!」
「!…」
振り向くと、杖を付いて立っているシエルがいた。
「どこへ行く?」
「…家に…帰る。」
「お前の家はここだろ。」
「っ…違い…ます…。」
「…」
距離があるはずなのに、シエルには声が届いていた。
「おかしいです…。私は、ヘンリー家の次女です。本来なら、ファントムハイヴ伯爵と会うことも、昨日で終わりだったはずなんです。でも、今日、今私はここにいて、あなたと会っている。こんなのは私の人生じゃないです。」
「…お前は、自分のことを下に見すぎだ。」
「っ……もともと…下の方にいた人間ですから。」
私は微笑んだ。引きつった笑い方。でも、シエルには見えないだろう。