第3章 来栖 龍之介・弐
「ちょ、ちょっと待ってくれ…シャワーを浴びてくる…!」
"瑠璃子"という女にそう告げると、俺はそそくさとバスルームへ逃げ込んだ。
汗を流したいというよりは、この異様な状況を頭の中で整理する時間が欲しい。
(泉のヤツ…マジで何考えてんだ……)
瞳さんを紹介された時も当然驚いたが、彼女は男慣れしているようだったから俺も相手が出来た。
けれど今度の女はどうだろう…
いかにも純情そうで、世間一般的に見れば"可愛い"部類に入るのかもしれないが、おおよそ俺の好みではない。
そんな女の相手をしなきゃならないなんて…
(…何とか諦めさせるしかねぇか)
向こうがやる気を失くせば泉も文句は言ってこないだろう。
そう考え、シャワーを浴び終えた俺は備え付けのガウンを羽織って彼女の元へ戻った。
「…待たせたな」
「いえ、そんな…。こちらこそ、お疲れのところご無理を言って申し訳ありません…」
「………」
ぺこりとお辞儀する彼女を改めて眺める。
小柄で童顔…泉の後輩と言っていたから、年齢は恐らく24、5だろう。
その細い左手の薬指にはしっかりと結婚指輪が嵌められていた。
「さっき泉が言ってた事…本気か?」
「…え……?」
「俺にセックスの手解きをしてほしいって話」
「……、はい…」
もう一度確認の為にそう尋ねたが、彼女の答えは変わらない。
いくら泉の命令とは言え「その頼みは聞けない」と告げれば、必死な顔をした彼女が俺の腕にしがみ付いてきた。
「お、お願いします…!私…何でもしますから…」
「…何でもって……」
「来栖さんの言う事何でも聞きます…!」
「……、」
その言葉に心がぐらつく。
見るからに従順そうな女…
(…たまにはこういう女を相手にするのも悪くない…か)
「…本当に俺の言う事、何でも聞くんだな?」
「はい…!」
「…気が変わった。俺のモン奉仕しろ」
「……、」
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