第2章 来栖 龍之介・壱
瞳さんの口から出た信じられない言葉…
(泉と別れて瞳さんと…?)
そもそも俺と泉は恋人同士ではなく、奴隷と御主人様という主従関係…俺が彼女から逃れる事など出来ない。
「何か理由があって百合香ちゃんと離れられないなら…私が彼女を説得してあげるわよ?」
「…え……」
「来栖くんが私のものになるって約束してくれるならね…?」
「……、」
そう囁きながら俺の唇をなぞってくる瞳さん。
彼女の言う通りにすれば、俺は泉から解放される…?
もうあの蔑んだ目で見られる事もなく、束縛される事もなく、人間としての尊厳を取り戻せるのか…?
「私ならちゃんと来栖くんの事可愛がってあげるし…今日みたいにいつでも好きな時にセックスだってさせてあげる…」
「っ…」
耳元で囁かれる甘い誘惑。
俺は…俺は……
「…来栖くん……?」
起き上がって彼女の体を引き離す。
俺が当然誘いに乗ると思っていたらしい彼女はひどく驚いていた。
「すみません…、俺……」
やっぱり俺は泉じゃなきゃダメだ…
どんなに馬鹿にされようと、時にはクズだと罵られようと…
彼女の視線、甘い声、魅力的な体、高圧的な態度…
その全てが俺を魅了して止まない。
俺を好きなようにしていいのは泉だけなんだ…
「…そんなに百合香ちゃんの方がいいの?」
「……、はい…」
「そう…残念」
「………」
「良かったわね、百合香ちゃん」
「…?」
不意にドアの方へ視線を向ける瞳さん。
すると突然ガチャリとドアが開き、1人の女が部屋の中へ入ってきた。
「なっ……泉!」
「………」
そこに立っていたのは腕組みをしている泉で…
「な、なんでお前が…!」
「そんな事より…ずいぶんお楽しみだったようですね……社長?」
「っ…」
冷たく突き刺さるようなその視線に体が固まる。
一体どうなっているんだ…?
「ごめんね来栖くん…私たち、ちょっとした賭けをしていたのよ」
「…え……?」
「あなたが私を取るか、百合香ちゃんを取るか…」
「……、」
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