第1章 GF(グレイス=フィールド)ハウス
そうは思えども逃げていないのが現状。
いや、逃げられないというのが正しい。
ハウスの周りの遊び場である森を囲んでいる壁。
あんなもの、私だけなら簡単に超えられる。
赫子を使えば楽勝だ。
だが赫子など持つわけがないエマ達や、年少の子らは到底無理だ。
壁を登ることができても、その後は?
ここまで情がわいてしまっては置いていけない。
可愛い弟妹たちを鬼の餌食にすることはできなかった。
(その割には、成績(スコア)の低い子たちは見捨ててきた)
そもそも。
“ママ”を出し抜くのは容易ではない。
彼女は鬼側の人間。子ども達の育て役であり監視役。
流石は育て役というだけあって、賢いし強い。
12歳未満の子らでは到底敵わない。
頭脳は勿論、体力や筋力は並大抵ではない。
敵わないものだらけだ。
やれやれ、どうしたものか。
所詮私は力のない、ただの子ども。を演じているとはいえ、彼らを見捨てるのは忍びない。
それならいっそのこと。
この上っ面は幸せに満ちている孤児院で何の不自由もなく、楽しく暮らし。
満12歳で死ぬのほうが、後味的にはいいんじゃないか。
“また”死なねばならんと思うと気が重いけど。
あのピエロ野郎に致命傷を食らったあの時よりは。
幾分マシなはずだ。
つまり、私はあきらめている。
自分一人助かることより、兄弟たちの命を選びたいがために。
方法が思いつかないばかりに。
一発逆転の、何かきっかけでも欲しいところだ。
きっかけさえあれば逃げる気にもなれるのに。
味方が増えるとか。脱獄に便利な道具の入手とか。内通者とか。
まあ色々だ。
いずれにせよ、この檻(ハウス)から兄弟全員を連れて逃れるには、私一人では無理だし。
ーーー
エマに起こされた私は一人、眠た眠たのまま食堂へ向かった。
途中、幼い家族と合流しおんぶにだっこをせがまれ。
それらの相手をしながら、よたよたと食堂に入る。
現在39人のハウスの少年少女たちは、ほとんど集まっており仲良く朝食の準備をしていた。
きょろ、と見回すがその中に比較的目立つエマはおらず。
どうやら先に来てしまったようだった。
なんとなく、小さく溜め息を吐いた。
「おはよう、ハイマ」
そんな私に、一人で大きな鍋を持ちながらノーマンが挨拶をしてくる。
朝から笑顔が爽やかだ。
「おはよう、ノーマン」