第1章 GF(グレイス=フィールド)ハウス
日本でそれなりに売れた小説家をして、その裏で隻眼の梟なんて言われた半喰種。
なかなかに楽しかった。楽しめた。
それが。そんな私が。
小説の中でしか有り得なかった転生トリップをした。
まさか自分がそうなるとは。罰でも当たったと言うべきか。
いやしかし。
特典なんてなければ、今よりもっとずっと幸せだったろう。
忌々しく疎ましい記憶に、半喰種ではなくなったのにも関わらず使える赫子。
ただ、通常の食事が人間と同じものが食べれらるのは僥倖だっただけ。
いっそ何もかもなければ人間として幸せだった、かもしれないのに。
成人をとうに迎えていた私。
それなのにこの世界で生まれ落ちたその瞬間から、かつての半喰種として生きた記憶がある。
記憶さえなければ、乳幼児期の羞恥などなかったはず。
一番苦痛だったのは赤子のフリ。あれはきつかった。
ミルクに離乳食。挙句にオムツ替え。
羞恥と屈辱とは何度戦ったことだろう。
時間が戻ることなど有り得はしないが、もう二度と経験したくないものだ。
ハウスに来てからというもの、幼児のフリをすることが嫌で嫌で仕方なかった。
周りの子らに合わせることがかなりのストレスで、体調を崩し風邪をひきまくった。
おかげで私はノーマンに次ぐ病弱っ子と見なされてきた。
今では幾らかマシになり、体調を崩すことや風邪を引くことはない。
しかしそんなのはどうでもいいこと。
私は赤子の時から自我があった故にハウスの、この世界の真実の一端を知ってしまったから。
この農園(ハウス)は鬼が支配している。
孤児院とはよく言ったものだ。
正しくは農園であるというに。
孤児院に引き取られた子らは、清潔な服においしいご飯を食べ、健康に育てられる。
そして、12歳を迎えるまでに新しい親のもとへ行くことになっている。
子供たちは“ママ”からそう言い聞かせられ、育てられる。
まさか自分たちが鬼どもに食われるために生きているのだと知りもしないで。疑いもしないで。
孤児院(ハウス)に居る子らは、鬼たちに取引される最高級の食材、あるいはそれ以上の何かとして存在している。
これら全て、赤子のうちに見聞きし知ったこと。
知ってしまった当時は、なんてこったと頭を抱えたものだ。
しかし、これでもほんの僅かなんだろう。
なぜ私たちが鬼どもの飯にならねばならんのか。