第1章 GF(グレイス=フィールド)ハウス
母と慕う彼女は親ではない。
共に暮らす幼き彼らは兄弟ではない。
ここ、グレイス=フィールドハウスは孤児院で。
私は孤児。
ということになっている。
カランカラン、と遠くから乾いた鐘の音が聞こえる。
朝6時。起床の時間。
10年以上もこの家に居るから、鐘の音で目覚めることにも慣れたもの。
初めは毎晩のようにうなされた鬱陶しい悪夢も、今ではほとんど見なくなり。
よく眠れてありがたい限りだ。
なんだかんだ鐘の音に慣れたと言いつつも、まだ覚醒しきらない意識。
微睡みから脱するのはいつも難しい。
それもこれも、今自分が横たわっている真白でふかふかのベッドのせい。
嗚呼、起きたくないな。
誰にするでもない言い訳を、心の中でぽつりと言う。
うつらうつらとしながらもう一度意識をとばそうかと悩んでいると、扉が勢いよく開いた。
「おっはよー!!」
声の主はパタパタと軽快な足音をたてながら、私のベッドに近づく。
そしてばさっと豪快な音を立て、あっさりシーツをめくられた。
手放しかけていた意識が呼び戻され、まだ半開きの視界でシーツをめくった犯人を見つめる。
真っ白なカッターシャツにスカートを着て。
オレンジのウェーブがかったショートヘアーに、透き通るエメラルドの瞳をした少女が立っていた。
少女はにんまりと笑っている。
寝そべっていた体を起こし、少女の挨拶に答えた。
「...おはよう、エマ」
ボソボソと口にした挨拶の言葉に、少女は満面の笑みで答える。
「おはよう、ハイマ!」
クローゼットから着替えを持ってきてもらい、パジャマから着替える。
『ハイマ』の一日はこうして始まる。
前もって言っておくが、私の本当の名は『ハイマ』という名ではない。それはここでの名だ。
『ハイマ』こと、芳村エトは転生トリッパーである。
転生のきっかけとなった死因はCCGに潜り込んでいたVの旧多二福クソ野郎(薄ら笑いのピエロ)による平和的解決(一方的虐殺)。
自分が死んだ瞬間をハッキリとは覚えてない。
覚えていなくて当然なのかもしれないが、いまいち曖昧だった。
確実なのはカネキケンに“隻眼の王”を託したところまで。
それ以降の記憶はない。
恐らくそこで死んだんだろう。
目的(願い)は達成したんだから、いいということにしておこう。