第1章 係決めの日に休むとロク事ない
何でこんな事に…。
私は高杉君の自転車の後で、本日何回目かの思考停止状態に陥っていた。
「おい、それじゃ落ちちまう。しっかり掴まりゃいいだろ」
うぅ…もう、こうなったらヤケだ。
私は高杉君の脇腹辺りに手を回し、背中にしがみついた。すみません、胸、当たりますよね。私、さっちゃん程じゃないけど割と…気にしませんよね。本当にすみません。
私のくだらない思いをよそに、自転車は風を切って走る。
少し顔を上げて、高杉君越しに空を見た。
オレンジ色の夕陽が遠くに見え、大きな入道雲が茜色に染まっている。
「わぁ…」
「あ?」
「あ、あの、空が、きれいだなって」
「あぁ、夏の夕方は、俺は割と…好きだ」
高杉君の返事は、ひぐらしの鳴き声にまぎれて、ひどく小さく聞こえた。
帰り道、交わした会話はこれだけで、あとは私が自宅への道を伝えるくらいだった。
「ありがとう。その、なんかいろいろ」
「別に、礼言われるような事してねぇよ」
「いや、けっこう…」
「じゃあな、俺帰るわ」
「あ、うん。あ、じゃ、明日ね」
見送る私を振り返り、高杉君はわずかに唇の端を持ち上げた。
今、笑った?…高杉君って…笑うんだ。
なんか、今日、すごい1日だったな。
良く心臓もったよ。
ん?心臓と言えば、高杉君の動悸もけっこう激しかったな。腕に振動がきた気が。
ウチの前、坂道だもんね。申し訳ない。
私は瞬き始めた1番星を見上げ、不思議と嬉
しい気持ちがこみ上げるのを感じた。
翌日、2人乗りがバレて、私と高杉君は掃除係2週間の罰を受けるハメになった。
銀八先生がニヤニヤしながら
「いや、青春はね、先生良いなぁと思うのよ。でもやっぱダメなもんはダメなの」
と言い放ち、ザワつくクラスメイトに囲まれた私は、ポケットの中のど飴を握りしめ、窓の外の入道雲を睨みつけた。
たぶん、全部、夏のせいだ。