第1章 ヒロイン目線
右足の腫れはだいぶひいたが、晋助はタオルを拾い上げ、水で濡らすとそっと当て直してくれた。
枕元に置かれた水を一気に飲み、私にも渡す。
「ありがとう」
冷たい水は体に心地よく染みた。
「あ」
私はある事に気づき、声を上げた。
「あ?」
煙管を吸う晋助は、私を見つめる。
「言うの忘れてた、あのね」
話そうとした私を制し、晋助はどこに持っていたのか、小さな包を取り出した。
「?」
「放ったらかしの侘びってわけじゃねぇけどな。開けてみな」
少し皺がついた包を開けると、綺麗な紫色の石で藤の花が型どられた、簪が1本。
「わぁ綺麗…ありがとう」
簪って…そういう意味なのかな?
いや、違うよね。そういうの考えるタイプじゃなさそうだし。付けちゃっていいよね?
たぶん少し赤い顔で簪を付ける私を見て、晋助は少し笑った。
「ところで、お前は何を言おうとしたんだ」
「あ、うん。あのね」
私は晋助を見つめた。
「晋助、おかえりなさい」
「…お前なぁ」
晋助は煙とともにため息を吐いた。
「?」
「人がせっかく我慢して、あとは大人しく寝かせてやろうと思ってるっつうのに」
言いながら私の方ににじり寄る。
「えっ…と」
「言っとくが、煽ったのはお前だ」
神様、満願の夜は長そうです。