第1章 ヒロイン目線
「その女から手を離しな」
え…。
驚いて開けた目に映ったのは、月明かりを背にした、晋助だ。
刀を持った男の手を掴み、私を捕まえている男を睨んでいる。
今まで見た事のない険しい顔に、思わず見とれた。
「な、なんだお前は」
刀を持った男は晋助を振り解こうとしたが、晋助はその男を見ないまま、背負投のようにして石段の下に投げ飛ばした。
男の悲鳴が暗闇に消えていく。
肩を掴む男の手に力が入り、痛みに私の口からうめき声が漏れた。
晋助の顔は更に険しくなる。
「聞こえねぇか。その女から手を離せって言ってんだろ。そいつは、俺のだ」
男の動悸が背中越しに伝わる。
男は左手で私の左肩を骨が鳴る程の強さで掴み、右手はいつの間にか持ったのか、小刀を私の喉に当てた。
晋助の顔が引きつる。
男の体はカタカタと震える。
数秒、晋助の睨みに耐えきれなかった男は突然私を突き飛ばした。
晋助が腕を伸ばしたが間に合わず、私は石段を数段落ち、石灯籠に背中からぶつかった。
痛くて声も出ない私に、晋助は羽織を投げて被せた。
「〇〇、汚え血を浴びんな」
晋助の匂いがする羽織の中で身を固くする私の耳に、男の断末魔の悲鳴が聞こえた。