第1章 きっかけ
カカシを好きになったのは小さなきっかけだ。
下手な、月九のドラマでも最近は見かけない、痴漢に遭遇して、助けられたという下手な設定だ。
彼は私にとって、ピンチの時に助けてくれたヒーローだ。
忍に痴漢するなんて、身の程しらずで殺されたい奴だろうと思っていた。
しかし実際に痴漢に遭うと、
恐怖に震える。
14歳の思春期真っ只中の私は、
知らない成人男性の下半身など、気持ち悪く、怯えるもので、トラウマだ。
私は今も眼鏡をかけた小肥りの坊主頭の男性が苦手で苦労をしている。
声を出そうにも声は出ない。
夜中にウロウロしていたのなら仕方ない。
だが、今は、
朝の8時30分で、
日課の散歩中だった。
なぜニヤニヤしながらズボンを下ろしているのかと、通り過ぎようとするが、
痴漢野郎は、ほれ、見てみろ!とばかりに少し前に出た。
その瞬間、目を開き叫んでいた。
「おい、何汚いもの見せてんだよ!!クソ野郎!!!」
男が使うようなセリフを叫び、
その声に怯み、早足で逃げて行く。
怒り狂う私は
とにかく、奴を捕まえたかった。
(奴は商店街に行くはずだ)
走る奴を見ながら、
近道をした。
真っ暗の近道の中、
走りながら、ずっと
息苦しさを感じていた。
緊張をしていたのだ。
バッと近道から抜けると、
何と目の前に奴がいた。
痴漢野郎もまさかこんな道から
来るとは思わず、一瞬固まっていたが、すぐに走り出してしまった。
「ち、ちかん…ちかーん!」
最大限に声を出そうとするのに
本当に恐ろしく緊迫している時というのは、声が出ない。
周りに助けを求めようとするが、気がつかない。
(だれか気づいて!!!)
「ちかーん!!」
やっと大きな声を出せたと思うが、奴は逃げてしまい、遠くにいる。自分も走っているが、わからない、力が入らないのだ。