第1章 10月と君と秋風と
電車を乗り換える佐久間さんとは駅で別れることになった。ホームから階段を降りると、そこから反対方向に歩き出す。
「ばいばい、佐久間さん」
「ばいばい、中地君」
上ではガタゴトと電車が煩いせいか、佐久間さんの声はいつもより小さく聞こえた気がした。
人混みを、改札の方へ歩き出す。
「あっ…中地君!」
振り替えると、佐久間さんが俺をじっと見ていた。
「なーにー、佐久間さーん」
自分から声をかけたにも関わらず、彼女は俯いてしまった。やや距離があり表情が見えない。もしかして、お腹痛いとか?
足をくるりと反転させようとした時、佐久間さんがぱっと顔をあげた。
「やっぱりなんでもなーい!今日は、楽しかった!ありがとう!また明日ねー!」
にこっ、と笑ってそう言うと、佐久間さんは背を向けて走り出し、あっという間に人混みの中に紛れていってしまった。
やっぱり小さいと、すぐ見えなくなる。