第1章 10月と君と秋風と
「森さん」
教科書を片付けていた森さんを呼びとめたのは、月曜日の二時間目の休み時間だった。うん?と彼女がこちらを見上げる。
「あの、えっと」俺は詰まった。いざとなるとやっぱり緊張する。
「これ、この間のケーキのお礼」
結局こんなことしか言えなかった。我ながら拙い文章だったと思う。こんなんだから国語の作文点数とれないんじゃないか。
「わ!いいの?お礼だなんてよかったのにー」
開けてもいい?と彼女が訊いて、いいよーと答える。森さんはピンクの文具とか小物とかを使っているイメージがあったけれど、どうだっただろうか。
「わ!可愛い!これー!」
俺の渡したプレゼントに対して、彼女は予想以上の反応を見せた。よかったな、とちょっとほっとする。
「もしかして、中地君が選んでくれたの?」
そう訊く彼女に、うん、と返す。
「嬉しい!これ、大切にするね!」
そう言って笑う彼女の笑顔や仕草に、胸が高鳴るのが分かる。
彼女の話術は話すことにも聞くことにも長けていて、俺たちは結局チャイムが鳴るまで話し続けた。
「起立、礼。着席」
退屈な国語の授業が始まると、隣の席の拓人から肩をとんと叩かれた。どうやら俺に回し手紙らしい。
(森さんから)
拓人の口がそう伝える。渡された小さな二つ折りのメモを開くと、
『さっき話してた遊園地、来週行きませんか?(;> <;)』
顔を上げると、彼女と目があった。俺はゆっくり、口を動かして答える。
『い・い・よ』
高校生活といういわゆる“青春”な日々は、始まったばかりなのだと、俺は頭のどこかでそんなことを考えた。