ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第130章 スポーツの船
彼が何故そうしたのかと言えば
きっと説明もろくに聞かずぼんやり私を見守っていたからで
ボルダリングのゴールを知らなかったから……………
彼は事もあろうに天井の些細な凹凸に指を掛けて進み始めたのだ
フロアを包んだ黄色い歓声は一瞬にして恐怖に染まる
彼は何処がゴールか決めかねて天井に進み出した
長く艶やかな黒髪が重力に落ちて垂れ下がり
常人では有り得ない動きに腰を抜かす人々が視界の端に見える
先程まで凛々しい王子様だった彼が貞子へと変貌を遂げたのだ
まるでスパイダーマンか何かの様に壁を登っていた時と何ら変わり無いスピードで天井を這う彼の背中はホラー的恐怖の対象でしか無かった
私は無意識の内に歩みを進め上級者用スペース中央で真っ直ぐに天井を見上げていた
「イルミさん…………ボルダリングは壁だけです」
「あ、そうなの?」
特段声を張った訳でもない声はお通夜を思わせる程静まった部屋にやけに響いて
彼は間の抜けた声と共に落下した
本当に落下したと言う表現が一番正しい
今まで一体何処に力を込めていたのか知らないが全身の筋力を失った様に力を抜いた彼は頭からまっ逆さまに地面へ吸い込まれたのだ
「………っイルミさ………っ!!!」
私の短い悲鳴の他、フロア内で響いた沢山の悲鳴
しかし恐る恐る瞼を開いた先
彼は平然と私の目の前に怪訝な表情で立っていた
……………フロア中を魅力した挙げ句、恐怖のどん底に落とした張本人……………
そんな彼は
「何か騒がしくない?」
気だるげに髪を解かしながら悪態を付いたのだった