ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第129章 新妻の意識
涙がじわりと視界を歪めながらも懸命に発した言葉に彼は不適に口元を歪めていて
何故そんな顔をするのか解らず押し黙る
少し前のめりだった姿勢を正しながら再び視線を交えれば無機質に戻った彼と見詰め合う数秒
彼はゆっくりと瞬きをした後に唇を開いた
「家から隠すだとか世界を越えるなんて今更……解りきった事だしそんな事は問題外だよ。」
「………それに俺、他人に興味無いんだよね。自分の意思で選んだ人生が沙夜子じゃ何か不満?」
威風堂々と言い切った彼は私の不安の全てを溶かしてまるで戯れる様に余裕の笑みを落とす
彼は全てが希薄に見えて意思の強い人だ
不安要素すら当たり前と捉え全てを見越した上で彼は私を選んでくれたのだと感じさせてくれた
モヤモヤと広がった不安や怖じ気がまるで嘘の様にみるみる消えて行く
私は彼を想い彼は私を想ってくれているのだと、そう思えば次に溢れたのは胸を包む温かさだった
私がへにゃりと泣きそうな情けない笑顔を返すと彼はふぅっと息を吐き肩の力を抜いて
「すっかり冷めちゃったね。」
「………ですね、すみません」
「別に。」
一瞬にして淡白さを取り戻した彼は気だるげに料理を眺めながらフォークを持ち上げる
彼は優しい人だ
敢えて冷たく突き放す事で私の意思を固くさせて不安要素を取り除いてくれたのだと気付く
そして彼が普段語る事の無い胸の内を言葉にして伝えてくれた
それこそ甘い台詞とは違っていたけれど確固たる彼自身の意思なのだと十分に感じる言葉は私を深く包んだ
注がれたシャンパンは上質な香りで私を上機嫌にさせて
「さっきのあれ、マリッジブルーだっけ。」
なんて呟いた彼の台詞に私は全てが府に落ちて目から鱗だった
「おー!!あれが噂のマリッジブルーですか!!ちょっと私……新妻っぽい事しちゃってたんですね……感動……」
「数分で終わってたじゃん、馬鹿じゃないの。」
「は~~……マリッジブルー!!イルミさんの包容力と言いましょうか!あの「はいはい、歯にバジルが付いてるよ。」
「えっ……どこ……」