ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第128章 仕返しと浮かれた船
彼の職業を考えるなら致し方無い
そもそも平凡な旅行すら行けないと思っていたじゃないか……なんて思ってみても
本当に楽しみにしていた事が目の前で消える感覚は驚く程ショックだった
じわりと歪む視界に俯き席を立ち
「……そっか……仕方ないですね!お仕事ですもんね!」
空元気に発した言葉を残して私は洗面所へと飛び込んだ
仕方がない事だと思う頭、悲しく沈む心の二律背反
自然と滲んだ涙は彼の心を傷付けてしまうと思った
彼だって不本意で、彼だってきっと楽しみにしていて、彼だってきっとショックだった
更に、はじゃいでいる私に延期を告げるのは心苦しかったに違いない
私があの場で泣いてしまったら彼を困らせてしまう事は明白だ
そんな気持ちとは裏腹に鏡に映っためかし込んだ自身の姿は切なくて我慢していた涙がひっそりと頬を伝った時
音も無く開いた扉の向こうから彼は私の傍にやって来た
どれだけ取り繕ってもやはり彼にはお見通しで私は隠す事もせずに涙目を彼に向けていると
彼は飄々とした態度を崩さぬままに私の頬へ手を伸ばすと
「泣くと化粧が崩れるよ。」
なんて言った
「………別に良いです……」
明日の予行練習……なんて無駄な事
そもそも明日の旅行が無くなってしまったのだから本当に無意味だ
其れなのに彼は優しく私の涙を掬うとクスリと悪戯に笑って
「嘘だよ。」
なんて単調に言った
またしても何を言われたのか解らずにポカンと呆けた私は目を見開きながら間抜けな声を上げる
「嘘……?!え、嘘!?!?」
……………嘘…………………?!?!?!
何が嘘で何が本当なのか激しい感情の起伏に振り回されてパニックに成る私に尚も余裕を湛えたままの彼は
「エイプリルフールの仕返し。」
なんて言うものだから私は襲う脱力感にその場に座り込んだ