ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第128章 仕返しと浮かれた船
4月01日
ハネムーンという言葉を聞いてから私はずっとその日を楽しみにしていた
どれだけ楽しみにしていたかを説明すると不審行動の解説に成ってしまうので省くがとにかく楽しみで
遂に明日に迫った新婚旅行を前にピカピカのキャリーケースにはぎっしり荷物が詰まっていた
この日の為に彼が新調してくれたドレスや洋服
明日の出発には何を着ようか……なんて考えるだけで心臓は楽しく弾む一方で
明日の予行練習なんて言いながら無駄にバッチリメイクを施した私は次いでヘアアレンジに取り掛かっている
自然と口から漏れるご機嫌な歌
そんな私に淡白な視線を向ける彼と目が合う度にニコニコと頬を緩める
「楽しみですね!明日ですよ明日!」
「……………うん」
私達(主に彼)が立てた新婚旅行の計画は豪華客船で国を巡るという何ともゴージャスなもので
立ち寄る国の数は彼の休暇を考えて2ヵ国と成った
砂漠に広がるオアシス、そして北極圏の雪の街
私には何もかもが未知数でウェブサイトで眺めて見ては想像を巡らせて今日迄やって来た
……大好きな彼と優雅な船の旅……
絶対的に楽しいに決まっている
しかしながら私の言葉に歯切れ悪く答えた彼の様子が気になって私の笑顔はみるみる小さく成った
反らされる黒い瞳はテーブルに落とされて嫌に騒ぐ胸
不安が浮かび唇を開いたと同時彼はしっかりとした声色で言葉を紡いだ
「ごめん沙夜子、仕事に成った。」
私の世界が一瞬にして時間を失う
何を言われたのか解らずに漠然と悲しみが込み上げた
「………仕事………?」
なんてぼんやり繰り返しながらも髪を結っていた手が力無く落ちる
明日に迫った新婚旅行
二人で国を決めた日からずっとずっと楽しみにしていた
彼の"ごめん"の言葉から察するに今日という意味では無く明日からの旅行に影響する仕事が急遽入ったという事で
彼の不規則な生活を考えればこの先旅行なんて不可能なのではと思う
奇跡的に取れた纏まった休暇
それすらもあやふやに無くなってしまうのか
私は暫く固まったまま只彼を見詰めていた
「旅行には行けない……。」
明確な延期の台詞が耳に響いて
私は先程とはまるで別人の様に肩を落としていた