ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第125章 ハートのクイーン
………もしかしたらヒソカさんと彼は迎えの際に顔を合わせないと決めていたのかもしれないけれど
私はまだヒソカさんにお礼を伝えていない
命を救われ、沢山の楽しい時間を過ごし、孤独と寂しさだけに蝕まれなかったのは全てヒソカさんのお陰だった
命を狙われていると言うのに呑気に笑って眠れていたのは全て……
ちゃんと目を見て言葉で伝えたかったお礼
私は仕方なく手紙を書いた
メールでも……と思ったけれど何と無く素っ気ない気がして短い手紙をダイニングテーブルにそっと置いた
気が付けば落ち着く雰囲気の隠れ家ともお別れなのだと思えば少し寂しいけれど
ヒソカさんとは以前よりずっと仲良しに成ったのだし、また楽しくお喋りが出来るだろうと思う
鏡に映った自身のメイクをした姿は懐かしさを感じるくらいに久々で
私は大切に仕舞っていたアクセサリーをひとつずつ身に付けた
彼から貰ったダイヤモンドのネックレス
サプライズでプレゼントされたアンクレット
そして右手薬指に輝いた指輪
大好きな彼との日常が戻って来る
ソワソワと落ち着かずに窓の外を覗いた時、一隻の船が島へと近付いている事に気が付いた
途端に緊張する身体は彼との再会に震えて
浜辺へと停止した船から視線が離せずに私の両目からは次々に涙が溢れ出していた
船室の陰から悠々と表れた人影
真っ黒で艶のある髪を鬱陶しそうにかき上げてスラリと長い脚で砂浜へと歩み出す
印象的な黒い瞳、高く通った鼻筋、表情に乏しいまるで作り物の様に美しい姿
凛と冷たさを含んだ雰囲気を纏い白いシャツを波風に揺らした彼の姿に私は涙を拭いながら荷物を背負って部屋を急ぎながらもその足はある場所で立ち止まった
ダイニングテーブルを横切った時ふとある物に気付いたのだ
ヒソカさんの特等席に座っていたのはいつか習った操り人形
そっと持ち上げて見ればその手にハートのクイーンのカード
「……ヒソカさん……」
何ともヒソカさんらしいお別れの挨拶に緩んだ頬
楽しい思い出と共に人形を胸に抱き締めて私は隠れ家を飛び出した