ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第114章 ダァさん
彼は音も無く近くに立っていた
小虫の様に戦闘力の無い私相手なのだから普通に近寄って欲しい……心臓がバクバクしている
彼はそんな私を細めた瞳で見下ろすと大きな溜息を付いてキッチンへ消えた
甘い妄想とのギャップで風邪を引きそうだが彼は元々クールガイなので気にしない事にして席に付く
ソワソワしていると湯気の上がるトレイを持った彼がキッチンから現れる
そして笑顔で着席している私の前に運ばれて来たのはサラダ、スープ、チキンの丸焼きだった
「わぁ!美味しそう!」
「うん。」
「いただきます!」
「いただきます」
サラダはしゃきしゃきした歯応えから新鮮で添えられた生ハムとドレッシングがマッチして何とも絶品
コンソメスープも鼻を抜ける上品な味わいに私はうっとりしてしまった
やはり彼の料理は爆発か絶品の二択らしい
彼がわざわざ切り分けてくれたチキンも皮はパリパリ、身はジューシーでシンプルな味付けが素材本来の旨味を引き出していた
「ん~!ほんまに美味しいです!この鶏肉凄い柔らかい!」
「そうだね、ミックスナッツの効果かな。」
「……………え……………?」
「ん?」
持っているフォークが震えてカタカタと小さな音を立てる
…………ミックスナッツ…………………?
私は突然難聴に成ったのだろうか…………?
「…………え…………?」
「美味しいね、ダァさん。」
「ダァ…………さん…………?」
「死んで調理までされてるんだから呼んでも鳴かないよ。」
彼の声は耳に入らず、テーブルに並んだ鶏肉を只見詰める
既に切り分けられており原型を留めていないメインディッシュ
私が食べたこれが何……………?
ダァさん…………?
五臓六腑は元より全身が震えて視界が霞んで行く
…………………愛らしいダァさんが彼の手で塩加減抜群の鶏肉料理に……………
「沙夜子、ダァさんは死んだ。俺と沙夜子が食べてる。」
…………………死…………………
…………………食べ………………
「……………沙夜子……?」
無表情のままはっきりとした口調で言った彼を前に私が失神する数秒前の出来事だった