ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第112章 雨から雪に変わる時
急く気持ちを抱いたまま人波を縫って歩けば開けた視界の先
彼の姿を見付けて世界の全てが止まっている様な錯覚をした
ゆっくりと一歩ずつ彼に近付くにつれて輝き始める世界
少し雨に濡れたのかしっとり水気を含んだ前髪を鬱陶しそうにかき上げた彼は長い睫毛を僅かに伏せて涼し気な横顔を覗かせる
ダークグレーのスーツはベスト迄きっちりと着込まれているのに何故か妖艶で膝丈のコートも上質なのだと見た目で解る物だった
歩み寄る私に気付いた彼が悠々と此方を向いて大きな瞳が私を真っ直ぐに捉えた瞬間に息を飲む
潔癖な程美しいのにそこに混ざる妖しい空気は彼が醸し出す独特の雰囲気で
近寄る事すらも憚られ見惚れる最中彼は私の手からさらりと傘を奪った
「傘、俺の分忘れたでしょ。」
「………あ……すみません」
「良いけど……行くよ。」
ぐんと近い距離にドキリと心臓が鳴って騒がしい
……私は今どんな顔をしているだろう……なんて思いながらも見上げた先彼は真っ直ぐに前を見据えていた