ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第111章 思い出と曖昧な未来
私は彼という存在を失い全てが色褪せて行く世界で心が潰れてしまいそうだった
苦しくて泣いて寂しくて泣いて涙は枯れないのだと知った
部屋の中、スーパーへの道、街灯の下、何処に居ても彼の面影ばかりを探していた
「で、ヒソカ経由でイルミに再会したんだっけ……それまでどうしてたの?」
「………歩いて野宿して山越えて……ですかね、めっちゃ怖かったです」
「マジかよ!意外に根性あるんだな」
「いや、だって進まないとイルミさん見付けられへん!って一心で」
「俺には無理だわー」
右も左も解らない場所で何億人の中からひとりを探すなんて今の私には成し得ない
彼を求めていたあの時の私だからこそ出来た事
正直異世界は怖かった
私の事を知る人は見渡しても存在せず、私が命を落としても誰にも知られない世界
不安で心細くて仕方がなかった
……だけど私を突き動かしたのは彼だった
そして漸く見付けたのだ
大好きな彼を
優しい彼の隣を
今の私はその幸せの日々を噛み締めている
「…………でもさ、一年だろ?これからどうする訳?」
ドキリと跳ねた心臓の音
今の幸せにも期限が存在する事実
あの日々よりも深く愛を重ね、想い慕う気持ちを胸に抱く
不透明な私達の未来がどうなってしまうのかは私にも解らない
彼の"俺に任せて"という言葉に僅かな希望を見ながらも過ぎる時間に苦しい走馬灯が巡る
…………だけど…………
「わかりません!でも私今めっちゃ幸せですから!」
私は自然と声を弾ませていた
眩しく温かな今を大切にしたいと思う
「私何回でもイルミさんに会いに来ますし!」
本当は怖くて仕方が無い
また彼を失う漠然とした、しかし確実な恐怖
きっと前よりも近いからこそ深い悲しみに苛まれてしまうだろう
私達には抗えない壁が存在している…………けれど…………
私は何度でも彼に出会いたいと思う
一度失いまた手が届いたからこそ、そう思う事にした
飾らずに出た言葉にクロロさんは笑った後に何故か乾杯をし直した
「ま、お前らが良いなら良いんだけどな」
なんて少し酔っ払った様子で言ったクロロさんに
「………余計なお世話だよ。」
彼はポツリと小さな呟きを落としたのだった