第2章 やけ酒の１ヶ月

「藤木………彼女の所にお行き。」



「は？」



「私の所ばっかり来てもらってごめん。ありがとう。……さぁ彼女の所に旅立ちな！」


「………あのねさーやさん、ボクも別れたんだ」


「え！」

「という訳で、実は僕もやけ酒なんだ」



「まじかよ藤木………あんた………うぅ"………あんたも辛かったんやなぁ…………」


「情緒不安定かよ！………まぁ自分より落ちてる奴みたら気が楽です。」



まさか藤木が失恋していたなんて思いもしなかった。
しかも話を聞いてみればクリスマスの日に彼は消え
藤木はクリスマスの次の日に彼女に振られていた



「………クリスマスなんか無くなってしまえ………」


「そうやそうや！その調子やぞさーや！」



なんてひとしきり騒いでアパートに帰る


藤木は律儀にも


「レディーやから家まで送る」


と言うが


「キモい。結構です。」



私はいつも断っている



流石にそこまで付き合わせる訳にはいかないし、彼の面影から逃げる事もしたくない



「…………ただいま」



シンと静かな部屋には冷たい空気が漂う





目に入る全ての景色が彼の面影で私はまた涙を流す


飲みもしないのにグレーのマグカップにコーヒーを入れてちゃぶ台に置く


ピンクのマグカップからはココアの湯気


『ありがとう』


なんて彼の声が蘇り


「いえ！」


発した声は馬鹿みたいな空元気だった


「…………何してるんやろ………」



座椅子に彼は座らない

もうコーヒーを飲まない


座椅子に座りコーヒーを飲む彼は居ないのだ


未だ携帯に入った写真も見れずにうずくまる




「……………会いたいよ…………」



ポツリと漏らした声はそんな自分に追い討ちをかけた


彼に会いたい、彼に会えるのならば何処にだって走って行ける


しかし走った所でこの世界の何処にも彼は居ないのだ


彼が確かに存在したのだと確かめたくて彼の布団を広げてぎゅっと抱き締めれば彼の香りが鼻を抜けてその懐かしさにどうしようも無く寂しくなった



「………イルミさん………会いたいです………」




涙は頬を伝ってひとつふたつと布団を濡らした