ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第100章 私の誕生日
……………?
世界がスローモーションに見えて何が起こったのか解らない
手からすっ飛んだバケツからエサが零れて行く様をまるで悠長に感じ
其所だけを目指して突進し、群がる羊達のお尻を逆さまに眺めながら儚い笑みが漏れる
……………あぁ…………私は羊に吹っ飛ばされたのだ……………
私がいくら彼等を愛で可愛いと思っても彼等にとって私の気持ち等興味に値せず
目的は只空腹を満たす事
遠く支払いをしていた彼と係員さんの驚愕の表情が見える
あんなに楽しい気持ちだったのに
今は胸に虚しさばかりが広がって
「う"っ…………」
私は係員さんの悲鳴を遠くに聞きながら顔面からダイナミックに着地を決めた
……………身も心も人の視線も痛い………
ゆっくりと身体を起こした私の傍には彼が立っていた
取り繕う様に服に付いた草や土を払いながらも衝撃的な出来事に理解が及ばず真顔を上げると
「嘘でしょ、馬鹿じゃん。」
真っ向からグサリと精神を抉る言葉を受けた
今日の彼は甘口だと思っていたが全て勘違いだったかもしれない
駆け付けた係員さんは頻りに私の身を案じてくれているのに彼は腕組みしたまま私を見下ろし「見事に飛んだね。」なんて少し愉快そうに言った
正直痛みと恥ずかしさで爆発しそうである
係員さん達は馬鹿な金持ちが豪快に吹っ飛ばされる様子を目撃し、本当は腹を抱えて爆笑したいくらい面白かっただろう
彼も多分心で笑っている
先程迄ご機嫌な間抜け女がエサを持ち「私これからプリンセスみたいにモフに囲まれるんですよ~うふふ」なんて言っていたのに
柵に入ってものの数秒で吹っ飛ばされて宙を舞い、エサを奪われたのだ
そんなの私が目撃したなら大爆笑間違いなしである
なんて考えている最中にも羊達は容赦なく近寄って来る
先程エサを持っていたのだからまだ持っているだろう?!みたいな圧のある雰囲気と勢いに慌てて立ち上がった私だが
あっという間に取り囲まれて頭で追突して来る羊達に揺さぶられる
逃げようにもぐるりと囲まれ逃げ場の無い状況に私は恐怖していた
羊とは一匹なら可愛いが
寄って集られると怖い生き物だった