ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第96章 甘くないゲレンデ
「…………え、待って!!」
なんて叫び声も虚しく軽快に小さく成って行く背中に焦ってみてもやはり身動きは出来なかった
「……………おーい………」
多少滑れなくても彼に手を取ってもらい………うふふ、あはは……みたいなデートを想像していた私にとって
滑る所か立ち上がる事もままならず山頂に置き去りにされている今の現状は悲しい程に世知辛かった
正直びっくりである
普通置いて行くだろうか…………?
想像を絶する事が身に起こると人間はポカンと呆ける他無いらしい
私は暫く思考が停止して空が青い………なんて至極どうでも良い事を考えてしまった
想像と現実のギャップに付いて行けない
「…………ぐぬっ………くそ………」
其れでもこのままという訳にも行かずどうにか足掻いているのは辺りから刺さる視線でいたたまれない気持ちに成っているからだが
何度頑張ってみても立ち上がれる兆しは微塵も無く
立ち上がれた所でコントロールの仕方も解らない私では彼に追い付くなんて到底出来ないだろうと諦めるのは早かった
スタイリッシュに私を置き去りにした彼の遠い背中を眺めて乾いた笑い声が漏れる
猛スピードで人波を避けながら跳んだり回転している彼を見ていると何故か笑ってしまったのだ
楽しいとかでは決して無いけれど
「…………めっちゃ上手いやん………」
呟いた私の声は普段よりも低く染々と白い跡を残した
……………無の境地だ
追い付けないなら待つしか無い
私が居ない事に気付いているのか、其れとも滑り終えてから気付くのかは解らないが彼は一体どんな気持ちで帰って来るのだろう
流れるリフトをぼんやり眺める
あちこちから刺さる視線、私は所謂注目の的で
惨めな上に哀れまれているが大層格好いい技を決めながら滑った彼はさぞ気分が良いだろう
一体どんな顔で戻って来るのだろうかと心を無にして待つ事10分
たった10分
しかし慣れない雪山で身動きの術を失い唯一頼れる彼に放置されている状況は多大な不安を与えた
彼とウキウキのデートに来て私は一体何をしているのだろう?