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ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編

第19章 夏を見る1年半年






大きな入道雲にいつかの福井県の海を思い出した


何度思い返したか解らない彼女との日々は色褪せず自身の中にあるのに

日々薄れて行く彼女の唇や素肌の感覚……抱き締めると甘い香りが鼻を擽り柔らかな身体がぎゅっと自身に抱き付く感覚
癖のある髪を掬えば彼女は頬を赤く染めるのだ


腕に閉じ込めた感覚が薄れて行く


忘れたいと願っていて本当は些細な事も忘れてしまわないように願っている


ジリジリと焼け付く太陽に照らされて石畳の街を歩く


くっきり黒い影は一人分

いつか夕焼け空の下彼女と歩いた道で自身は二人分の影を見ていた

自身の影に比べれば随分小さな彼女の影は楽しそうに揺れていて
彼女はまたかき氷を食べようなんて話していた


その"また"は二度と来なかった



移動販売車に吊り下げられたかき氷の文字に立ち止まる

親子連れで賑わいを見せる噴水の広場に自身は酷く浮いている様な気がした


「ひとつ。いちご味」


笑顔を張り付けた店員の女からカップを受け取り噴水の端に座る

ぼんやり見渡した広場は幸せそうな雰囲気が漂い一口含んだかき氷は口内でジャリジャリと音を鳴らした


あの日のかき氷には程遠く不味いシロップにまた一口かき氷を口に運ぶ


「…………嫌いなんだよね苺。」


彼女には話さなかった嫌いな食べ物


酸っぱくて見た目も気持ち悪いフルーツ

だけど彼女は大好物だと瞳を輝かせ

甘くて見た目も可愛いと言った



「…………苺は全部沙夜子にあげるよ」


なんて呟きは一際広場を賑わせた噴水の音に掻き消えて

殆ど減っていないかき氷をゴミ箱へと手放して街を出た






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