ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第92章 強者と弱者
「………息子は殺されてしまったわ………」
悲しく沈む瞳に言葉が出て来ないまま暫くの沈黙が過ぎて重たい唇が開く
本来マダムは慈善事業等に興味や関心を持っていなかった
社交界に出向き多忙な仕事に追われて家庭でも様々な業務をこなし懸命に稼いだ財産を愛する家族の為に使い、自分の趣味に使う事が当たり前だと
何故赤の他人に恵むのか……と
しかし息子さんの事件をきっかけに何が原因だったのかを考えた末
「全ては貧困が悪いのよ……」
マダムは自分なりの答えを見付けて慈善事業を始めた
お金欲しさに奪われた命
マダムは同じ悲劇を繰り返して欲しく無いと願っている
そしてマダムはスラム街の実態を教えてくれた
慈善事業をしていてもそんなマダムを快く思わない住民は沢山存在していて始めた当初等は特に危険な目に合わされたり罵倒されたりしたそうだ
理由は様々あっても大体の原因は妬みや嫉妬、憎しみ………
マダムは深く傷付いた
歩み寄る事を拒否するスラム街の人々に手を差し伸べる難しさを感じたそうだ
何年、何十年と活動を続ける内に今の様な良好な関係を築けたのだとマダムは儚く笑う
しかしマダムはまだまだ胸を痛めていた
未だ横行する窃盗は住民は勿論、観光客まで襲い
中心部の子供や女性が誘拐され命を落とす例が後を絶たない
慈善事業で手を差し伸べた筈の子供や其の親が犯人だった時は言葉が出なかったと声を震わせた
「わたくしは何も変えられていないのかしら」
「そんな事………」
私はその時初めて裕福な人の気持ちを考えていた