ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第92章 強者と弱者
つい数分前まで煌びやかで立派な街にいた筈だ
高い高いコンクリートの壁を隔ててこんなにも景色が違う
宿泊しているホテルは其れなりに高い建物だが最上階の部屋からも塀に阻まれたこの場所は全く見えなかった
まるで無い物の様に隔離された空間は私の知らなかった空気を教えた
ガタガタに割れた石畳はいつ頃からこの状態なのだろう
そもそも始めは中心部と変わらない立派な街だったのではないだろうか……
私がそう思ったのは間近で眺めた町の端々に中心部程では無いものの似た装飾が色褪せて朽ちているのが見えたからだった
私自身何を思えば良いのか解らぬままに町を眺めていると
背後からわぁっと子供達の声が聞こえてマダムと私達はあっという間に取り囲まれてしまった
やはり慣れない事態に立ち尽くしてしまう私だが昨日感じた物と全く違う光景に何故か泣きそうに成った
マダムへと集まった子供達は無邪気に笑い「先生」とマダムを慕っていたのだ
そして私にも向けられる笑顔は純粋でキラキラと瞳が輝き「新しい先生?」なんて声まで聞こえる
「いいえ、今日は見学に来たのよ、皆良い子にね」
穏やかに言ったマダムは子供達を撫でて優しく微笑み、私の脳には聖母様が思い浮かんだ
それ程までに目の前の光景は平和そのもので胸がじんわり温かく成ったのだ
「先生早くー!」なんて駆けて行く子供達の背中を遠くにマダムとスラム街を歩く
お世辞にも生活環境が十分に整っているとは思えない町並みで元気に響く声はある種の希望を思わせるものだった
「貧富の差を全て埋める事は難しいけどね、わたくしは根本を正すのが一番だと思ったのよ」
マダムの真剣な声が響いて視線を向ける
「……根本……」
「お金が無いと教育を受けられない。そうなると仕事も自ずと決まってしまうわ……だから子供達に教育を、そして未来を託したの」
「最初はね、字の読み書きも算数も出来なかったのよ?」
なんて困り顔で笑うマダムに私は頷いた