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ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編

第91章 少女の瞳







私は気が付けばポケットからクッキーを差し出していた


私は基本的に現金を持ち合わせていない

ポケットを探って見付けたのは馬車に乗り込む際に食べようと思って忘れていたクッキーで、現金の代わりに手渡したのだ


女の子のお腹が少しでも満たされるなら無いよりはマシだと思っての事だったのだが


途端に何処からやって来たのか大勢の人々に取り囲まれてしまい何を話しているのか聞き取れない程の声が投げ掛けられた

私は其の勢いに圧倒されてオロオロする他無く



「何も買わない。俺達には必要無いから消えてくれない?」


彼の凛と通る声が周囲の人を威圧する迄ただ立ち尽くしていた


有無を言わせない声色は冷たく響き

怯えた様に去って行く人波の中、女の子の悲しげに揺れる瞳が酷く印象的で胸が苦しく成った


一瞬の出来事で静けさを取り戻した辺りに彼の気だるげな溜息が落とされる


「………沙夜子、物乞いには何も渡しちゃ駄目だよ。常識でしょ。」


手続きで私より少し遅れて来た彼は黒服の荷物持ちの男性を従えてやって来た



私は日本から出た事が無く、突然異世界へとやって来た訳だが
彼の言葉に漸く先程の人達が物乞いであるのだと気付いた所だった


日本には存在しない為に考えが及ばなかった人達の存在にインドなんかの物乞いの話を思い出す

確かに何も購入してはいけない、という事を耳にした事はあった



………だけど…………



「………ちょっとくらい買ってあげても良かったんじゃないですか?」


先程は突然大勢の人に囲まれて怖かったというのが本音だ

だけど彼等は皆生活に困窮し、生きるのに必死だっただけなのでは無いだろうか

彼ほどのお金持ちに成れば少し買い物したって困りはしないのだから目の前の人を少し助けるくらい……なんて思っての発言だった




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